極楽せきゅあブログ

ときどきセキュリティ

ウイニー怖い話

で、師匠の事例を真似てなぞらえてみると、こんな感じかな?


田中くんはエリート、どこに行っても出世頭という秀才でした。
とにかくここまで人生はものすごく順調で、日本でも有数の大学を見事な成績で卒業し、官僚経験を経て民間に華麗な転身を遂げた田中くんは、いわゆるセレブと言っていいほどのいいくらしを手に入れて、それを満喫していました。
実は田中くん、ある情報流通ルートを知っていて、そのルートは会員制で田中くんのようなセレブしか加入できないんですが、そのルートを使うとものすごいおいしい情報が入手できたのでした。官僚時代は上級官僚の動きや思惑、ちょっとダークだけどその弱みとか、政治家や企業の情報なども入手してすばらしい実績に結びつけていました。民間での事業に関わるようになってからも、ライバルや業界地図、思惑などに関しての有益な情報をどんどん得ていました。おかげで商売も順調、美しくて優しい奥さんに優秀な子どもにも恵まれて、バラ色といっても過言ではない人生を謳歌していました。
そして、田中くんをそこまでにしてくれた情報はすべて、タダで手に入れることができたのです。信じられないことに。
気がかりなのは一つだけ、その情報ルートを使うときに紹介者の人に言われたことだけでした。
紹介者の人はこう言いました。
「このルートはものすごく役に立ちます。しかもお金はぜんぜんかからないんですよ。普通同じような情報を手に入れようと思ったら、ものすごく高価になるんですけどね。これは特別な人向けの裏のルートですから、お金がかからないで済むのです。
でも一つだけ気をつけてください。ある情報にアクセスすると、それ以降あなたはきっちり対価を支払わなければならなくなってしまうのです。その情報が何かはわかりませんし、対価についても事前情報は一切ありません。ものすごく気をつけていれば、怪しい情報はそれとわかるようですが、それ以上のことは誰も知らないのです。
それでも使いますか?このルート」
そしてその紹介者は、対価を支払えなくて破滅した人のことも話してくれました。中には将来を悲観して、自分の会社のあるビルの屋上から飛び降りてしまった人すらいたそうです。
田中くんは何事にもチャレンジする性格でした。そしてチャレンジする都度、最大の成果を勝ち取って来たのです。気にはなりましたが、それまでに大もうけしておけば対価を支払うくらいわけないことだ、と、思い切って賭けてみることにしたのです。世の中お金さえあれば何とかなる、というわけです。
もちろん、ただ無謀な賭けに出るだけでは能がありません。田中くんは情報分析の専門家と契約し、怪しい情報かどうかを分析させてから受け取ることにしました。自分に知恵や知識が無ければ、専門家に頼む。さすがは秀才の田中くん、きわめて合理的な判断だったと言えるでしょう。
そのように準備や予防策を怠らなかった結果、これまで危ない情報に手を出さずに、そのルートのうまみだけを享受できていたのです。
ところがある日、田中くんがパートナー企業との次期事業計画のミーティングを順調に終えたとき、パートナー企業であるA社の人から「田中さん、そういえばこの前のB社とのプロジェクト、ボロい儲けだったみたいですねえ。いやうらやましい限りです」と言われました。B社とのプロジェクト?そんなの当然秘密事項だったのに、なぜB社のライバルでもあるA社の人がそれを知っているのだ?
田中くんは混乱しましたが、田中くんを混乱させることはそれだけではありませんでした。
それ以降、行く先々で「田中さん、今度はITビジネスに進出ですか。ウチもちょっと混ぜてもらえませんかねえ?」「田中さん、次の提携ミーティングには、○○大臣も招待していただけませんでしょうか?ゴルフに一緒に行かれるくらい親しいんでしょ?」「田中さん、そういえば来週はアメリカ出張でしたよね?ウチの親会社はアメリカのあの会社とはちょっとヤバいんですよ。出張見合わせていただけませんか?」などと言われてしまうようになりました。もちろん、田中くんにはそうした情報を喋ったり漏らした覚えはひとつもありません。いや、それどころか、知られてはいけない情報が、一番知られたくない相手に漏れているようなのです。
しまいには「田中さん、大臣にあんな贈り物をしたらマズイんじゃないですかねえ?」とか「田中さん、奥さんに内緒で別な女性とうまくやろうとするなんて、ちょっと虫が良くないですか?」とか、脅しまがいの目にも遭うようになってしまいました。さらには情報公開(漏洩)は田中くんの情報だけにとどまらず、奥さんや子どもの情報まで漏れてしまうようになってしまいました。田中くんにとって何より衝撃だったのは、あの優しい奥さんが田中くんの同僚と浮気をしていたのを知ってしまったことでした。しかも、子どものうちの一人はその同僚の子どもだったのです。それを知った、田中くんは目の前が真っ暗になりました。そして、田中くんが知ってしまったことを知らされた奥さんは、家を出て行ってしまいました。
懊悩のあまり仕事できなくなってしまった田中くんに、追い打ちをかけるかのように一通のメールが届きました。そのメールには「あなたと同じ情報流通ルートの利用者です」という署名がありました。メールの内容はこんな感じでした。

あなたもあのルートを使ってたんですね。あのルートは危険です。
どうやら、とある情報をそのルートから入手してしまうと、それ以降自分が持っている情報はすべて強制的に公開されてしまうようなのです。
おそらくあなたも、その禁断の情報を知らぬ間に入手してしまったのでしょう。
そうなるともう、あなたの持つ情報はどれ一つとして秘密にはできません。もちろん、いったん公開されてしまった情報を取り戻したり、消したりすることも不可能です。

そうです。これが田中くんに課せられた対価だったのです。
田中くんは泡を食って専門家を呼び出しました。そして「どうして怪しい情報をちゃんと警告してくれなかったんだ!?」と詰問しました。
専門家は、「これまでに把握していた怪しい情報の事例に基づいたものは、すべてちゃんとフィルターしていました。でも最近情報提供ルートのシステムに変化があって、これまでのパターンに当てはまらないものが出始めているのです。残念ながらそういうものは把握できません」などと、ある意味開き直っていました。そして、責任を果たせなかったので違約金を支払う、とすら言い出しました。皮肉なことに田中くんの元にはまだまだお金が集まってきていました。そして、田中くんに残された手段は、金で解決することくらいになってしまいました。
田中くんは大金をつぎ込み、あのルート紹介者を捜し出しました。そしてその紹介者に「金ならいくらでも払うから、握った情報をすべて公開されてしまうのだけは何とかしてくれ」と頼み込みます。しかし、紹介者は困ったようにこう答えただけでした。
「わたしはあなたにこのルートを紹介するだけです。このルートのもっと効率の良い使い方などはいくらでもお教えできますが、残念ながら公開を止める方法は知りません。また、このルートに載ってしまった情報を削除したり、取り戻すことは原理的に不可能なのです」
すべての望みを絶たれた田中くんは文字通り絶望してしまいました。これではいくら大金を儲けていたとしても、何の価値もない。家庭は崩壊してしまったし、秘密を保てないのでビジネスなどできるわけもない、そんな状況に耐えられる人間なんてそもそも居るはずもありません。プライバシー、秘密が一切保てない人生なんて、生きる価値も無い……田中くんはふらふらっと夢遊病者のように会社のビルの屋上に出てしまい、柵を乗り越えて……


ちょっと「世にも不思議な」風にしてみましたがw、ありきたり過ぎるかなあ?
でも師匠のたとえ話よりはわかりやすいと思うんだけど、どーかなあ。このウイニー怖い話、タイトルはさしずめ、「ウイニー止めますか、人間止めますか?」とかかな(笑)。実際に映像化(って誰がやるんだよ(爆笑))するときは、特に後半はうまく演出して最後までなだれ込みたいところですね。