極楽せきゅあブログ

ときどきセキュリティ

レポート

突然ですが、とある学生さんが書かれたレポートの内容が良かったので、ご本人の許可を得た上で掲載してみる。

 インターネットは私たちの生活や社会との関わり方を大きく変え、今や社会生活になくてはならない存在となっている。スマートフォンの普及で容易にインターネットへのアクセスが可能となり、特にSNSによりインターネットが普及し始めると、一昔前とは比較にならない速度で情報が拡散されるようになった。インターネット上の情報は私たちの生活に恩恵をもたらす一方、特定の個人を誹謗中傷する情報や、他人の著作権を侵害する違法性、有害性を含む情報も一部ある。インターネット上の情報によって権利侵害を受けた者(被害者)にとっては、情報をいち早く把握し、削除したいと考えるのは自然であり、違法性、有害性情報拡散への早急な対応がインターネット社会での課題であると考える。「プロバイダ責任制限法(平成14年5月27日施行)」が施行されてから約12年が経つが、総務省が支援、設置している「違法・有害情報相談センター」に寄せられる相談件数は引き続き上昇傾向である。実際に私の勤め先にも個人を特定できるほどの本人の情報が掲示板に書き込まれるという被害にあった従業員がおり、情報は未だに削除されていない。
 私の勤め先での事例だと、従業員の書き込み被害に対する社内ルールが整っていないことが初動の遅れにつながった理由の一つではあるが、そもそも従業員への違法性な書き込みに企業はおろか、本人さえ気が付くことができないという根本的課題がある。また、書き込みの事実に気が付いた場合でも被害者がプロバイダ責任制限法に基づき賠償責任を求めるにはハードルが高い印象がある。例えば、被害者側にプロバイダ等に事実を認知させる必要性が生ずることや、プロバイダ等側に技術的に削除等が可能である手段が保持されていることが前提となっている点である。(だいたい、インターネットでのプライバシー侵害が日常的に行われているのに対し、個人が裁判所に請求する行為自体が非日常的であると感じるが)書き込み削除への対応を例にした場合、法制度からのアプローチでは解決に時間がかかることが想定され、インターネットの拡散性を踏まえると対応は十分でない。違法性のある情報の一早い特定、拡散抑止への技術的措置が可能となれば、被害が最小限にとどまるのではないだろうか。 
 ワールド・ワイド・ウェブの開発者であるTim Berners-Leeは、ウェブの未来として「リンクトデータ」を提唱している。ページとページのリンクが今のワールド・ワイド・ウェブに対して、リンクトデータはデータとデータとのリンクとなる。リンクトデータを使えば、データを直接読んだり操作したりできる。研究者が「信号伝達と錐体神経胞にかかわるたんぱく質は?」という質問をグーグルに入力すると23万3000件がヒットし、答えはバラバラであった一方、同じ筆問をリンクトデータに聞くと、条件に合うごく少数のタンパク質の名前があがったという。検索エンジンを使うと求めている情報になかなか辿りつけないため、検索用語を工夫することでなんとか見つけようとしている個人的経験があるため、リンクトデータは書き込み対策に可能性のある技術だと考える。検索エンジンでヒットしやすいということは、違法性のある情報の拡散を助長する側面はあるが、リンクトデータのようにデータ自体を取り扱える検索技術が現在のワールド・ワイド・ウェブで使えるのであれば(もしくはリンクトデータを普及させるか、だが)、掲示板等においても確実な情報の特定が可能となる。希望する用語を登録できるサービスをプロバイダ等に登録し、登録した用語が違法的、有害的に使用されていないかをリンクトデータのようにデータレベルでサイトを監視し、検出した場合にプロバイダおよび利用者に通知するサービス提供をプロバイダ等に義務付けることができれば、被害者にとってのプロバイダ責任制限法の敷居も低くなり、書き込みへの初動が早くなる。また、法と照らし合わせ削除が妥当と判断された情報を特定と同時に速やかに削除(もしくは、アクセス制限をかける)することができれば、拡散を食い止めることができる。削除する情報判断に法を考慮する必要があるのは、削除行為が発信者の権利侵害にあたる場合があるためであるが、この問題も技術による解決が可能であると考える。
人工知能の進歩により、今後10年〜20年の間に消える仕事が一時期話題となった。現在においても、弁護士のアシスタントや契約書専門・特許専門の弁護士の仕事はすでにコンピュータによって行われているという。人工知能によって情報削除の妥当性を瞬時に判断させることが可能となれば、プロバイダ側にとってのサービス運用の負担を減らすことができ、違法性、有害性のある書き込みへの対応サービスが広がってくるはずである。サービスが広がると、違法性、有害性のある情報の拡散に消極的なプロバイダ等はおのずと淘汰されていくため、プロバイダ等はよりよいサービスを提供していくこととなるだろう。
情報共有のメリットを損なうことなく、インターネットでのプライバシーの保護、確保を法的側面だけでなく、技術的に切り込むことができれば、より豊かな社会が実現すると考える。


(参考文献)
プロバイダ責任制限法 インターネット上の違法・有害情報に関する法律実務
関原秀行[著] 日本加除出版株式会社
・別冊日経サイエンスサイバーセキュリティ P114〜121 ウェブを殺すな
株式会社日経サイエンス
・今後10〜20年の間に消える仕事・残る仕事  http://eco-notes.com/?p=649